2025.03.06
フィリピンの教育事情 パ-ト2

3月は子供たちにとって卒業シーズン。4月に始まる新生活への準備で忙しい方もいらっしゃることでしょう。日本では春休みに入りますが、フィリピン人とお休みの話をしていて「おや?」と思ったことはありませんか。日本の学校の長期休暇は、全国的に7月末から8月の夏休み。ところが南国フィリピンでもっとも暑い日が続くのは3~5月ごろです。乾季の後半にあたるため、からりとした晴天が続き、日中の気温は35度を超えます。またフィリピンの義務教育制度が定める学期のカレンダーが日本とは異なるため、同じ夏休みについて話していても、微妙に異なった時期について話していることがあるのです。今回はフィリピンの教育制度に絡んだお話です。
学校は4学期制、新学期は夏休みのあと
基本的にフィリピンの公立学校についてお話します。日本の3学期制に対して、フィリピンは4学期です。フィリピン教育省によって昨年発表された2024⁻2025年の学校行事日の一覧です。
学校行事 | 日付 |
学年度始業 | 2024年7月29日 |
学年度終了 | 2025年4月15日 |
ブリガダ・エスクウェラ(学校整備週間) | 2024年7月22~27日 |
学年準備期間 | 2024年7月22~8月2日 |
中間休暇(教師の研修と業績評価) | 2024年11月25~29日 |
クリスマス休暇 | 2024年12月21日~2025年1月1日 |
授業再開 | 2025年1月2日 |
卒業式 | 2025年 4月14~15日 |
この表によれば、フィリピンの2025年の長期休暇は、4月16日から新学年が始まるまでです。2025年の新学期のスタートは6月16日と発表されていますので2ヶ月となります。
2024年は大規模な台風襲来が相次いだため、7月末の始業式が延期された地域もありました。
2025年の始業式が2024年より1か月以上も早いのは、後述するコロナ禍の非常時体制からゆっくりと本来のペースに戻しているためです。
2026年には4月~5月が夏休みになる予定です。
進級制度
日本の義務教育は小学校6年と中学校3年の合計9年間。基本的に全員が進級し、留年はほとんどありません。フィリピンの義務教育は幼稚園1年、小学校6年、中学校4年、高校2年の合計13年間です。4半期ごとのテストが行われる日程も正式に決められており、そのあとに数日から10日程度の短い休暇があります。学年末テストで、75点以下の科目が3つあると自動的に落第して同じ学年をもう一回繰り返すことになります。出席日数が8割に満たない場合も同様です。
校門を一歩出るや勉強どころではない貧困層の子供たちには過酷です。家庭に勉強ができる場所がない他、働き手として家計の一部を担わされている子供たちもたくさんいるのです。級友たちが進級していくのに自分だけが落第すれば、学校に行く気がなくなってしまうのも理解できます。しかし初等教育段階でのドロップアウトは、彼らの将来に深刻な影響を与えることになります。
学期末試験 | 試験日 |
1学期 | 2024年9月23~24日 |
2学期 | 2024年12月2~3日 |
3学期 | 2025年2月7~10日 |
4学期 | 2025年4月7~8日 |
出展 Teach Pinas (DepEd School Calendar for SY 2024-2025 – Teach Pinas)
みんな揃って大掃除
日本にはない興味深い行事としてはBrigada Eskwelaがあります。新年度、子供たちを迎え入れるにあたり、教師や関係者だけではなく、地域住民すなわち生徒とその親族や卒業生、さらには近隣の大小の企業まで巻き込んで、ボランティアで学校施設を修繕/清掃する1週間とされています。資材や教材を寄付したり、大工仕事や塗装など腕に覚えのある人は労力を提供したり、子供たちのためにできることを地域の大人達が持ち寄る、という善意によって成り立つ制度です。実際の取り組みの様子をのぞいてみると、おそろいのシャツを着て歌ったり踊ったり。地味な労役でさえ、せっかくやるのであれば皆で楽しんでやろうという前向きな気質が窺わるようで、さすがフィリピンと感心してしまいます。
フィリピン人は語学が得意
英語とタガログ語の授業以外の小学3年生までの授業は、その土地で話されている現地語を使って行われます。フィリピンの言語といえばタガログ語と思われがちですが、フィリピンは全土で180を超える言語が使われているとも言われる多言語国家で、それぞれの違いは日本の方言のそれをはるかに超えます。これら地方語は本来の意味での彼らの母語です。ですからタガログ語を母語とする首都圏民を除く地方出身フィリピン人の全てが、宿命的にバイリンガル、英語を加えればトリリンガルということになります。フィリピン人が海外就労した際に、あっという間にその国の言葉を習得してしまうのもこの辺りに理由があるのかもしれません。
コロナ禍の子供たち
コロナ禍は全世界の子供たちの学業の面においても、多大な影響を及ぼしました。フィリピンでも2022年8月に対面授業が再開されるまで、公立学校は約2年半もの間閉鎖されることになりました。先進国のように十分なインターネット環境も受信機器もいきわたっていない状態で、突然学校や学友から隔絶され、オンラインと印刷物のみによる教育が長期間にわたって試みられました。そのことが与えた影響は計り知れません。学力の危機的低下を鑑み、カリキュラム変更の必要に迫られた結果、基礎読解と算数により多くの時間を割く方針が取られました。昔風に言うならば、生活していく上で最低限必要な<読み書きそろばん>に集中しようということです。2024年からはマタタグ(安定的な)というスローガンのもと、習得すべき範囲を絞る方向で義務教育内容の見直しも進められています。安定的な人格形成のための基礎教育に注力という理念に反して、拙速な変更と準備不足に戸惑う現場の声が報じられました。経済協力開発機構(OECD)による15歳生徒の学習到達度調査(PISA)によると、フィリピンの学習到達度ランキングの低迷が続いていている中、さらなる「ゆとり」方向に舵を切っているようにも見えます。子供たちとやがて彼らが担うことになるフィリピンという国全体の将来を考える時、不安を覚えざるを得ません。
まとめ
人間形成の上で、初等教育はもっとも重要だと言われています。乾いたスポンジのように教えられたことをどんどん吸収していく生徒たちの能力を、さらに伸ばしていくのは教育制度です。PISA2022年の発表によると、フィリピンの生徒の約25%は、小学校入学後に少なくとも1回は留年したと報告されています。勉学に勤しむうえで決して理想的とはいえない環境に身を置く子供も多くいる中、1年間のカリキュラムを終え進級できたことは、子供たちにとってだけではなく、それを支えた親たちにとっても誇らしいことです。卒業式は、生涯忘れることのできない晴れがましいイベントです。一人でも多くの子供たちがより良い教育を受け、質の高い生活を送るための糧を勝ち取って、厳しい社会に船出していけることを祈ってやみません。
執筆者 上村康成 From TDGI東京オフィス
お問合せ ↗
TDGHRM フェイスブック