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2021.10.06

フィリピンの教育事情 ~2012年の教育制度大改革以降の変化~

教育制度の改革

2012年、ベニグノ・アキノ政権下でフィリピンの教育制度に大きな改革がありました。
「K to 12」* といわれるシステムが導入され、5歳児(日本の幼稚園年長組)から初めて小学校6年間、中学校4年間、高校2年間 7-4-2(幼+小ー中ー高)の13年間を義務教育化したのです。

それまでのフィリピンの教育制度は初等教育(小学校)が6年間、中等教育(フィリピンではHigh School (高校)と呼ばれていましたが、日本の中学校に相当します)が4年間、合計10年間の基礎教育を行う6-4制の教育制度で、その後は大学などの「高等教育」に進学することになっていました。ご存知のように、日本の義務教育は6-3-3制の12年間ですが、日本や日本に近い教育制度を持つ国々と比べ、当時のフィリピンでは、基礎教育(初等・中等教育)が2年短かったということになります。年齢で言うと、高校卒業時は16歳、4年制の大学に進学した場合でも大学卒業時はまだ20歳だったのです。

この6-4制教育制度には弊害(デメリット)がありました。
まず基礎学力の低さです。
日本のように初等中等教育の期間が12年の国と比べ、フィリピンでは12年分の学習内容を10年で詰め込んでいたと言われています。筆者はフィリピンにも何度か訪れていますし、フィリピン人と触れ合う機会もあり、これまで感覚として「フィリピン人は算数が弱い」という印象を受けましたが、これは数値としても現れています。

OECD経済協力開発機構ではPISA(Program for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査を行なっています。
日本も参加しているこのPISA調査では15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに調査が実施されています。
フィリピンは2018年に初めてこの調査に参加しましたが、読解力で79カ国中最下位、数学と科学はそれぞれ最下位から2番目に低い結果となっています。近隣諸国のマレーシア、インドネシアを下回る結果でした。2018年の調査ですからフィリピンの教育改革から6年経過しているものの、まだ成果として現れなかったのでしょう。

この結果を受け、当時のフィリピン教育省(DepEd)のブリオネス長官は、国際水準とフィリピンの学生の学力の開きを把握することができたとし、今後の教育改革に活用していくとの見解を述べています。
今後フィリピンの教育大改革の成果が見えてくることを期待したいですね。

6-4制時代の教育制度の弊害に、「就業の問題」もありました。
フィリピンの成人年齢は18歳ですが、当時の教育制度では高校卒業時の年齢は16歳です。
16歳では精神的にもまだ未成熟で就職先も限られます。仮に就職できたとしても経験不足とみなされ、転職などその後の雇用機会にも恵まれず、失業状態が続く可能性が高いのです。6-4制の教育制度は若者の失業率が高い原因の一つになっていた、とも言えるかもしれません。

もう一つの弊害が「他国との制度の違いがもたらす不利益」です。
フィリピンで基礎教育を修了しても12年間の基礎教育を条件とする海外の大学には直接進学できません。そのためさらに2年間、国内の大学に在学するなどして時間をかける必要があります。
またフィリピンは国内産業が乏しいこともあり、OFW(Overseas Filipino Worker)と呼ばれる海外出稼ぎ労働者を多く輩出している国ですが、海外で働くO F Wのなかには、国内では専門知識を持つエンジニアとされていても、海外では基礎教育が不足しているとして一段階下のエンジニア扱いとなることもあるのです。

 

新たな教育制度 K to 12

こうした弊害を解消するべく、ベニグノ・アキノ政権が導入したのが、本日のブログの最初に出てきた「K to 12」(ケイ トゥー トゥウェルブ と読みます)と言われる教育制度です。
この制度では中等教育を2年間上積みし、さらに5歳児(Kindergarten、日本の幼稚園年長)から公的教育が開始されることになりました。
「K to 12」、幼稚園1年間、小学校6年間、中学校4年間、高校2年間、K+12年の制度です。
Kとはキンダーガーテン(幼稚園)のことでが、小学校に上がる前の1年間も義務教育となったのです。
お気づきかもしれませんが、「義務教育」の年数だけを比較すると、日本の9年(小学校6年+中学校3年)よりもフィリピンの義務教育期間は日本よりも4年も長くなったのです!

 

この教育改革からすべての子どもは小学校入学前に幼稚園に通うことになりました。別の言い方をすると、幼稚園に(1年)通わなければ小学校に入れなくなったそうです。フィリピンの教育機関の発表によると、小学校前に幼稚園に通った子どもは小学校で中退する確率が下がる、つまり「小学校に6年間しっかり通い続け、卒業できるようにするためには幼稚園での教育が大切だ」という考えから来ているそうです。

教育改革前のフィリピンでは小学校の段階から中途退学する子供が多く、ある試算では、小学校に入学しても6年間最後まで通い続けられるのは7割程度とも言われていました。家が貧しく家計を助けるために働かなければならなかったり、そうでなくても学習意欲を失ったりして、学業を続けられない子供たちも多かったのです。長く続いた制度の改革では教育現場の対応が間に合わず、義務教育は無料ではあるものの、延長となった3年分の通学により親の経済的負担も重くなっている、など、様々な問題点もまだあるようです。しかしこの基礎教育の拡大は国民からは支持されています。

 

 

現在のフィリピンの教育事情

教育改革から10年近く経過しました。義務教育は無料にも関わらず、フィリピンでは学校に通わない(通えない)、いわゆる不登校の子供たちがまだまだ多く存在しています。
フィリピン統計局が発表している年間貧困指標調査(APIS)の2017年の調査では、6歳から24歳のフィリピン人推定3920万人のうち、約9%が学校に通っていない子どもと若者(Out-of-School Youth / OSCY)であることがわかりました。OSCYとは、正式な学校に通っていない6歳から14歳の児童、および、現在学校に通っておらず、有給で雇用されておらず、大学や中等教育後のコースを修了していない15歳から24歳の青年とその家族を指します。男女比では男性(36.7%)よりも女性(63.3%)の方が高い結果となっています。
2020年、2021年は世界的なパンデミックの影響により失業者も増加し、家族の失業とともに学校へ通えなくなってしまった子供達の数も増加しているだろうと懸念されています。

生徒数は圧倒的に公立学校の方が多いのですが、フィリピンは私立の学校がとても多いのも特徴です。富裕層の子供たちは幼稚園から教育環境が整う私立学校へ通います。フィリピンの教育現場では児童の数に対し教師の人数が足りていません。入学希望者が多く学校の教室のキャパシティを超えてしまう場合もあります。そうした場合は他の小学校への入学を勧められることがあります。公立学校でも学校側から入学を認められた子供だけが通学できる、ということも驚くようなことではないようです。日本からすれば羨ましいほどに綺麗な人口ピラミッドを描くフィリピンでは、子供の数が多いため、教室を分担して使い分け、生徒を昼間と夜間に振り分ける学校もあります。

このようにまだ様々な問題があるフィリピンの教育事情ですが、勉強意欲が高い生徒がいるのも事実です。また、子供たちは幼稚園から英語を使って授業を受けますので、英語の能力が高くなります。フィリピンの中学生の方が日本の大学生より英語能力は高いかもしれません。高い英語能力はフィリピンの学生にとって、勉強に必要な情報を英語でインターネットから探し出し、最新の情報をいち早く得られる、などのアドバンテージ(利点)となります。海外の大学で勉強したい、海外で働きたい、というフィリピンの若者にとって非常に有利でもあります。

 

フィリピンの教育現場はまだ発展途中かもしれませんが、無限の可能性があるとも言えるでしょう。

 

TDGグループでは日本語学校TSGAをマニラで運営しております。別の機会にTSGAやフィリピン人の日本語学習についてご紹介したいと思います。

 

(経済教両区開発機構(OECD)、日本貿易振興機構(JETRO)の情報、数値を引用)

 

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