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2021.10.07

フィリピン大統領選挙  -大統領選挙の仕組み見通し-

2022年 フィリピン大統領選挙

フィリピン国民の幅広い支持を集めるロドリゴ・ドゥテルテ大統領は2016年に就任し2022年に6年の任期満了を迎えます。

 

フィリピンでは大統領は「1期6年・再選禁止」の規定になっており、2022年5月に正・副大統領選挙が行われる予定です。そこで今回は大統領選挙の仕組み、見通しなどについて書いていきたいと思います。

 

選挙制度

フィリピンの憲法では、任期が満了する6年ごとの5月第二月曜日に正・副大統領選挙が行われるとしています。日本と違い選挙日は日曜日ではなく、月曜日なんですね。ちなみに選挙日は特別休日となります。余談ですが選挙日の当日と前日はお酒の販売が禁止されます。大統領は1期・6年のみ、副大統領は2期・12年まで認められています。正・副は別々に選挙が行われ、アメリカのような正・副セットではないため、対立政党から正・副大統領が就任するケースもあります。現に今の副大統領であるレニー・ロブレド氏は野党である自由党出身であり、ドゥテルテ大統領とは対立関係にあります。
正・副大統領の任期は6月30日から6年間です。

 

 

2016年の選挙結果

 

 

今後の展望を見る上でも、前回選挙の結果を振り返ってみましょう。

 

 

  1.    (1) 先ほども書いた通りフィリピンでは大統領の再選は禁止されているため、2016年6月に任期満了を迎えたベニグノ・アキノ3世の後任を選出する選挙となりました。
  2. 当時現職だったアキノ大統領は同じ自由党のマヌエル・ロハス氏を後継指名しましたが伸び悩みました。また当時国民の支持を集めたグレース・ポー氏が出生地やフィリピン居住年数から候補者資格をはく奪されるという、事態も起きました。結局は異議申し立てにより2016年3月に資格認定されましたが、その間の出遅れが影響し選挙結果では3位に終わりました。

 

 

  1.  (2) その間隙を縫って当選したのが民主党・国民の力(PDP Laban)のロドリゴ・ドゥテルテ氏でした。ドゥテルテ氏は1988年以降フィリピン南部ダバオ市の市長を通算7期も務め、それまでは治安の悪かったダバオを「東南アジアで最も安全な都市」に名を連ねさせるまでにした手腕が国民の支持を集め、ふたを開けてみれば次点ロハス氏に600万票の差をつける圧勝でした。

 

 

  1.  (3) 同時に行われた副大統領選では現職アキノ大統領が推すレニー・ロブレド氏が当選し、ドゥテルテ氏との正・副対立の構図が生まれました。なおこの副大統領選で注目すべきは、次点に入ったボンボン・マルコス(Bongbong Marcos)氏。本名をFerdinand Marcos Jrといい、かの有名な故フェルディナンド・マルコス元大統領とイメルダ夫人の息子です。Bongbongはあくまでもフィリピンのニックネームであり日本語の「ボンボン(お坊ちゃん)」とは関係ありませんが、日本人にとっては示唆に富んだ名前と言えるかもしれませんね。

 

 

2022年選挙の展望

  1.    (1) 前述の通り憲法の規定により、ドゥテルテ大統領は2022年の選挙に立候補することはできません。与党民主党・国民の力とドゥテルテ大統領陣営の当初の思惑は、大統領に立候補できないドゥテルテ大統領が副大統領に立候補し、大統領には、フィリピンの世論調査で最も人気が高い、大統領の長女で現ダバオ市長のサラ氏か、ドゥテルテ大統領の側近のボーン・ゴー上院議員を立候補させることでした。サラ氏は「豪快な庶民派」として国民の人気が高く、出馬すれば最有力候補になり得るのですが、ドゥテルテ大統領とサラ氏の不仲説や、サラ氏自身の大統領選への否定的な発言がささやかれる中、10月2日に、サラ氏本人はダバオ市長選への立候補を表明しました。またボーン・ゴー氏もそれよりもっと以前に大統領選への不出馬を表明していました。加えて、ドゥテルテ大統領の副大統領への立候補が、大統領の再選を禁止する憲法規定に違反している(大統領が任期中に不慮の事故等によりその任務を全うできない場合には副大統領が繰り上がるため)という有識者の指摘や、世論の反発もあり、ドゥテルテ大統領は10月2日、任期満了後の政界からの引退を表明しました。これにより、大統領選に前向きではない、サラ氏とボーン・ゴー氏を正副大統領の候補者として、後押しする形となりました。また一部では、「ドゥテルテ大統領が在任中に行ってきた『超法規的措置』も辞さない麻薬捜査を巡って退任後に国内、ないし国際刑事裁判所(ICC)で訴追される可能性があり、訴追回避を目的に権力維持が必要であったのが、与党内の候補者調整のなかで自身の退任後も訴追を免れるとの確証が得られたため」との見方もあります。与党としてどう大統領選をすすめるか、先行きが不透明の中、立候補締め切り直前で、大きな動きがあるか注目されます。

 

 

  1.  (2) サラ氏以外の有力候補ですが、マニラの貧困地域出身で俳優になりその後政治家に転身した、現マニラ市長イスコ・モレノ氏や、先に触れたグレース・ポー氏、ボンボン・マルコス氏の名前があがっています。また今回特に注目されているのはフィリピンの国民的英雄でボクシング選手のマニ・パッキャオ氏です。10月1日に早々と大統領選に正式立候補していて、大統領選のキーパーソンの一人になることは間違いありません。パッキャオ氏は政治家としての経歴も意外と長く、2010年に初めて下院議員に当選、2期当選の後2016年には上院に鞍替えしました。ドゥテルテ大統領と同じ、与党民主党・国民の力の所属ですが、パッキャオ氏が南シナ海問題に関連してドゥテルテ大統領の対中姿勢を批判しており、ドゥテルテ大統領陣営とは良好な関係ではなく、与党内の支持も分裂しております。なお先月の9月時点での支持率では、サラ氏が1位。次いで、ボンボン・マルコス氏、イスコ・モレノ氏、マニ・パッキャオ氏、グレース・ポー氏となっています。

 

 

  1.    (3) 立候補の受付けは2021年10月1日から始まり、締め切りは8日まで。今週末には候補者が出揃うことになります。
    先ほどの支持率の高い候補者のうち、マニ・パッキャオ氏、イスコ・モレノ氏、ボンボン・マルコス氏は、すでに大統領選に正式立候補をしています。有力候補者の動きは今週中には判明するでしょう。ただし2016年の選挙では当初ドゥテルテ氏の下馬評は低かったにもかかわらず最終的には圧勝したように、まだまだ予測は難しいようです。

 

 

2022年選挙は対中政策が大きな争点の一つとなります。
サラ・ドゥテルテ氏は父親の路線(対中融和)を継承するのではないかと思われますが、本人は何も表明していません。

ボンボン・マルコス氏は親中で知られており、イスコ・モレノ氏もドゥテルテ大統領寄りです。
パッキャオ氏はこれまでよりも中国に対して厳しい姿勢で臨む可能性があり、それにより現政権と比べると米国との関係は改善すると思われます。グレース・ポー氏も「領有権を争う海域での事実上の支配を避けるために行動を起こすべきだ」と対中姿勢を鮮明にしています。国民の世論次第で両氏の支持が伸びる可能性はあると言えるでしょう。

 

 

日本との関係という意味では、ドゥテルテ大統領は親日であり、サラ氏も親日姿勢を崩さないと思います。パッキャオ氏やポー氏は米国寄り→親日が期待され、またその他の候補が大統領になっても対日関係に特に大きな影響・変更があるとの報道はなされていません。

 

 

外務省ホ-ムペ-ジ|フィリピン共和国

 

日本でも新しい政権が発足しました。日本はフィリピンにとって主要な貿易相手国(2020年は輸出先第1位、輸入元第2位)かつ投資国でもあり、技能実習生や特定技能制度でフィリピン人労働者を受け入れています。今後も両国の良好な関係が続いてほしいですね。