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2021.10.11

ロックダウン(lockdown)とは?

ロックダウンとは?日本にはないロックダウンとはそもそも何なのでしょう?

新型コロナウイルスの感染第5波がようやく収まりつつありますが、感染第5波が急速に拡大していた時期、日本特に首都圏において「日本でもロックダウンを検討すべき」という声が都道府県などからあがっていました。日本にはないロックダウンとはそもそも何なのでしょう?

 

 

1. ロックダウン(lockdown)の定義

 

今年になって耳にすることが多くなった「ロックダウン」とはどういう意味なのでしょう。

  1.  1) 広辞苑には記載がありませんが、英和辞典をひくと①(囚人の)監房内への厳重な監禁②(安全確保のための)建物の完全封鎖 とあります。また特定地域もしくは建物へ入ったり、そこから出たり、その中を移動したりが自由に出来ない緊急の状況を言います。ロックダウンに対する違反には通常は法的処罰が伴うものであり、そういう意味では戒厳令(martial law)に近い性格を持っているとも言えます。
  2.  2)日本の現行憲法・法制においてはロックダウンや外出制限、その違反者に対する罰則はできないと考えられています。戒厳令についても戦前はありましたが現行法体系においては存在しません。

 

近年日本でこの言葉が注目されるようになった最初のきっかけは、2020年3月23日に小池東京都知事の「世界各地で都市が封鎖されている、いわゆるロックダウンをされているところで・・・」「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」との発言だったと言えると思います。当時は北海道で最初の緊急事態宣言が発出されていたとはいえ国民も今ほど慣れておらず、「ロックダウン」の言葉にはインパクトがあり、日本政府のその後のコロナ対策の議論にも影響を与えたと思われます。

 

 

なお「緊急事態宣言」は改正・新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき発令される宣言です。先ほども書いた通り日本の法制では外出制限やその違反に伴う罰則を行う根拠はないため、緊急事態宣言は「外出自粛要請(お願い)」に留まる内容です。

これとは別に感染症法では72時間限定ではありますが交通の制限・遮断を行うことはできますが、これにより店舗の閉鎖や外出制限を導くことは難しく、こちらもロックダウンを行うための十分な根拠とは言えないでしょう。

 

そう考えると2020年3月の小池都知事の発言は法的根拠のないものだったと言わざるを得ませんが、国民の危機意識を促すという意味では効果はあったかもしれません。

 

2. フィリピンにおける「ロックダウン」

東南アジアにおけるコロナ禍も依然収束には程遠く、フィリピンもその例外ではありません。ワクチン接種率や接種のスピードが日本と比較して遅れているため、感染状況の抜本的改善にはつながっていません。ワクチンについてはシノバックやアストラゼネカ等7種類が認可されていますが、フィリピン国民は「このワクチンなら打たない」などとして接種率が上がらなかったとのことで、これに怒った政府は、接種の直前までどのブランドか伝えない、またドゥテルテ大統領も「ワクチンを打つか刑務所に行くか」として、半ば強制的にワクチン接種を促しています。今後接種率は上がって来ることが期待されます。

 

本題のロックダウンですが、フィリピンでは2020年3月15日から5月15日までの2か月間、外出・経済制限等を伴う厳格なロックダウンを実施しました。その後ロックダウンは緩和されたものを加え、感染状況に応じた4つのレベルが、定められました。以下、各レベルの名称ですが、ロックダウンというと、①のECQが最も当てはまります。

 

 

  1. 1)フィリピンにおけるロックダウンのレベル(上から厳しい順) 
    • ①Enhanced Community Quarantine (ECQ, 強化されたコミュニティ隔離措置)
    • ②Modified Enhanced Community Quarantine (MECQ, 修正を加えた、強化されたコミュニティ隔離措置)
    • ③General Community Quarantine (GCQ, 一般的なコミュニティ隔離措置)
    • ④Modified General Community Quarantine (MGCQ, 修正を加えた、一般的なコミュニティ隔離措置)

    ECQの厳しさを10とすると、MECQは9、GCQは3、MGCQは2とも言われており、GCQまで下がるとだいぶ生活の利便性は戻るようです。

 

2) またフィリピン政府は今年9月16日から、試験的にマニラ首都圏において、新型コロナ感染症の感染状況や病床使用率に応じた警戒レベルというものを新たに定めました。

警戒レベルは5つのレベルがあり

 

 

  • 警戒レベル1:症例の伝播が低く、減少している、総病床使用率及び集中治療室の使用率が低い区域。

 

 

  • 警戒レベル2:症例の伝播が低く、減少している、医療利用率が低い、または症例数が少ないが増加している、さらに症例数が少なく、減少しているが総病床使用率及び集中治療室使用率が増加している区域。

 

 

  • 警戒レベル3:症例数が多く、および/または増加しており、総病床使用率と集中治療室使用率が増加している区域。

 

 

  • 警戒レベル4:症例数が多く、および/または増加しており、減少している、総病床使用率及び集中治療室使用率が高い区域。

 

 

  • 警戒レベル5:症例数が警戒すべき領域に達しており、総病床使用率と集中治療室使用率が危機的なレベルとなっている区域。

 

 

フィリピンの警戒レベル1・2が、日本のステージ1に、警戒レベル3がステージ2に,警戒レベル4がステージ3に,警戒レベル5がステージ4に相当しているように思われます。警戒レベルごとに外出・経済制限があり、例えば警戒レベル3では、“飲食店は最大30%の定員または座席数で、屋内外の食事サービスが許可される“や”屋外運動は、併存疾患、ワクチン接種の状況に関わらず、すべての年齢層に許可される“等、行動や業種・施設ごとに細かく定められていて、覚えるのも大変です。また日本ではステージ4になると緊急事態宣言の検討という話になりますが、フィリピンでは警戒レベル5になると、自動的にECQの外出・経済制限が発令されるということです。具体的にECQの外出・経済制限を見ると「日本でもロックダウンを」と言うのがためらわれるかもしれません。

 

  • 厳格な自宅隔離:18歳未満、65歳以上、健康上リスクのある人や妊娠中の人は常時自宅から出ることができない。つまり子供は一切学校に行けず遊びに出ることもできない。運動、集会なども不可。

 

  • 必要不可欠な物品(食料など)やサービス(病院・薬局など)の利用のための外出は、許可を取った上で一家族1名がする。
  • 鉄道、バス、ジプニー(小型乗合車両)等の公共交通機関も利用不可。航空は限られた国際便のみ。(移動できない)。
  • 飲食業はテイクアウトもしくはデリバリーのみ。

 

3)ECQに限らずロックダウン中は自治体同士の越境が厳しく制限されます。自治体の境界にはチェックポイント(検問)があり、所定のIDと許可がないとチェックポイントを通過することはできません。また地方自治体政府が、より地理的に範囲を細分化した移動・経済制限措置(局所的なロックダウン)を、先ほどの警戒レベルに関係なく実施できるようにしました。

 

 

2021年8月にマニラ首都圏がECQに指定された時、マニラ・トンド地区の検問所で違法に通り抜けようとした市民に対し、地方行政機関の警備員が発砲し殺害するという事件が起きました。

2020年4月~7月の間にはコロナ規制違反者に対するこうした殺害が155件も起きているという情報もあります。

これは当時ドゥテルテ大統領がこうした違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との指導を警察等当局に行ったためとされています。一方で長びくコロナ禍でドゥテルテ大統領も経済に対する深刻な影響を懸念していて、「早くワクチンを打って」経済活動を再開したい、という考えにシフトしています。この点は現在の日本とも似ていて、フィリピンも迅速かつ効率的なワクチン接種で、安心できる生活と経済回復の実現と、渡航制限が緩和されたときには、フィリピンからも入国が許可されることを願っています。